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新感線!

どうも。神不在の物書きです。

新感線9月公演「吉原御免状」
正式にアナウンスされましたね。

図らずもこの「そうさもう、お江戸」と同じく色街が舞台なお話です。

こういうシンクロがよくあるんです・・・・

たまたま書いてる物のタイトルで映画制作発表されたり
そういう名前のアルバムがリリースされたり。

もうちょいなのかな。私のそういう発想。
それともありがちなのかな。。。。。

でも好きなアーティストや作家・役者が絡んでると
ちょっとうれしいです。

あぁ。神よ。

早く降りてきてくれ。。。。。

どんどん思いついた言葉やタイトルが世に流れ出ていってしまう。

本当にそろそろ再開しないとまずいと思いました。

怠惰

どうぞ哀れんでください。

どうにも神が指先に降りてこないのです。

早くも沈黙の時は訪れてしまったのでしょうか?

イメージの放出は肥大化し

それをまとめる文章能力が追いついていない有様。

想像屋という職業があるとしたら

かなりトップクラスの役職につけるのではないか。。。。。

頭がぱんぱんで爆発しそうです。

今年は

時代劇益々ブームの兆しが見えますねぇ。

今日ジェノサイドという漫画を買いました。
新感線の中島かずき様(我が心の師)の作でございます。

確かこれ舞台用に書いたはいいが
キャスト多すぎで却下になった代物という噂もきいたような。

真田十勇士VS里見八犬士の戦いなる
どきどきワクワク忍法帖ストーリーです。

アニメにならないかなぁ。

それと9月新感線公演予定の
吉原御免状の原作もゲット。

阿修羅城・アオドクロ・吉原御免状

ますます新感「染」でございます。

林 子平(そうさ、もうお江戸)

林子平(はやししへい)

・24才

・男性

・この名前。本編ではまだ呼ばれていない。
 というより、呼ばれることは少ないだろう。
 この名前が彼の本名で現在はある事件(本編とは接点のない)が
 きっかけとなって世捨ての意味で自らつけた
 六無斎(ろくむさい)という名前のほうが浸透している、
 顔見知りには「六」という愛称でも通っている。

 ようやく本編に現れた鬼討伐隊「閻魔」の一人。

 もともと血気盛んな人柄だった男だが
 過去に幕府に謀反の罪を問われ、
 大事な人間を失ったことから
 世捨て人となり京の字のように作家をしながら
 その日暮らしの生活を送っていた経緯もある。
 (それはそのうち番外編にて執筆予定。)

 普段は飄々とした外見で役人にしては
 町の人間にも親しまれ信頼も内外問わず厚い。

 部隊の中でも世話人的な男で
 討伐よりも調査・事後処理の役を担っている。

 彼が「鬼」巣食う江戸の街の平穏を
 守護する存在ということは一部の人間しか
 知りえない事実である。


 

本編 幕の七

昨日は飲んでもやはりなかなか酔えず、
沙耶はこの始終を興味津々な眼で聞き続けたが
終いには話し途中で寝ちまった。

部屋に戻り俺も床に着いたがなかなか寝付けねぇ。
うつらうつらとしていて結局は御天等さんと顔をあわせる始末。

裏庭で湯を浴びて、六さんの迎えを待った。

今日は朝から天気もいい。
昨日の雨か朝露か
きらきらして眩しい。

普段はあまり食べない朝飯をいただいて数刻後

六さんはいつもと変わらぬ様子で迎えに来た。

「さすがの京さんも昨日の一件で寝付けなかったかい。」

飄々と歩く六は周りの連中と
愛想良く挨拶を交わす。

「そりゃ、あんなことがあらぁな。」

門を抜け橋を渡ると河原の水面がきらきら眩しい。

「六さん。どこ行くんだい。」

通りすがりの飴やからべっこ飴を一つ買い
六は口に含みながら

「うん。番屋で大将が待ってるから。」

大将。結枝のだんなのことだ。
確か名前は遠山とか言った。

無骨な奴で今いち近寄りがたいやつだ。
がたいもいい、腕っ節の強そうなやつで
結枝の長い馴染みの旦那だってことぐらいで
店で袖触れ合う程度の縁でまともに話したことはない。

お互い顔見知りだか付き合いは浅い間柄だ。

「俺。あまり気がのらねえなぁ。」

「京さん。そういうなよ。ああ見えて話のわかる男だよ。」

酒も好きだが甘い物もよほど好きと見える。
六はさもうまそうに飴をたぐっている。

「大将。顔は朴念仁だけど気が合えば話しも弾むさ。」

「気が、合えば。な。」

橋を過ぎてしばらく行くと、元吉町の入り口に
番屋がある番屋の戸を開けると
朴念仁が座って待っていた。

「大将。連れてきたよ。」

六は誰にでも同じように話しかけるようだ。

「手間かけたな。六無斎。」

そういって書きかけの筆を置いた。

「京之介殿。いつも結枝が苦労かける。」

さすがにこう下出に出られると
構えていたこっちも調子が狂った。

身分も違えば立場も違う。
こっちは女郎屋の居候、相手は御武家で客人だ。

「いや。大したこともしちゃいねぇ。礼を言われる程でも。」

六が岡引の持ってきた茶を二人に勧める。

柱に背もたれて茶をすすりながら。

「何だかおかしな二人だねぇ。顔見知りだろ?」

何も躊躇せず俺たちにふっかける。

「まぁ。でも話したことはあまりねぇし。」

「そ、そうであったな。こちらは結枝から色々話を聞いてるので
 京之介殿のことはいくらか存じてるが。」

「そ、そうかい。あ。その京之介殿っての止めてくんねぇか。京の字でいいよ。」

「承知した。京の字殿。」

やはりあまり気のきかねぇ朴念仁だ。

「まぁいいや。で、旦那があっしに何のようだい。」

「時に昨晩。鬼に出くわしたと。」

「あぁ。鬼の腕が飛んできたと思ったら、その鬼は誰かに退治されやがった。」

「その一部始終を見られたのか?」

「その通りよ。こっちは訳もわからねぇ寸法だがあいにく
 性根が曲がってるせいか、正気を失わずにすんだようだ。」

「な、間違えねぇだろ?大将。」

六は口を挟むように遠山に告げた。

「六さん。間違いねぇってのはどういうことだい。」

六は遠山の旦那と目を合わせると

「実はな。俺たちゃあるお役目についてる。」

遠山の旦那もこちらをじっと見る。

「鬼。退治してるんだろ。」

二人はあっけにとられて

「京さん。なんで知ってるんだ?」

こちらがあっけに取られる。

「何でも糞もねぇよ。昨日爺さんのいたとこまで案内したろ。
 そこで六さんはなんだかまじないをしてそこの邪気を飛ばして帰った。
 しかも、旦那が鬼退治のお役目についてるのは結枝から聞いてるよ。」

取り越し苦労とばかり二人はこっちの話を聞いて
茶を口に含んだ。

「そうであったか。」

何か納得したかのように遠山は一呼吸置いた。

「京さん。あんた。いっしょに鬼退治しねぇか?」

六がすかさず言ってきた。

俺は口の中の茶を噴出しそうになった。

「ば、馬鹿いっちゃいけねぇ。なんでおいらが。」

「京之介殿。いや京の字殿。」

「あのなぁ旦那。その殿ってのが。」

「では京さん。あんたは鬼と縁があるようだ。
 どこでどう鬼に出会い、どう鬼が見えるようになったかは
 よくはわからない。」

それはわかるわけもないだろう。
後にも先にも俺は鬼なんかに出会ったことはなかった。

「京さん。あんた昨日の祓いの後にも鬼の記憶を持ってる。」

「ああ。それがどうか。」

六は腰に着けた太刀を前に差し出す。

「これは鬼斬の太刀。まぁえらい神様の御神力が宿った代物なんだが
 鬼を退治するにも鬼の思念を断ち切るこの刀を使うわけだ。」

「じゃぁ。昨日の鬼退治は六さんがやったのかい?」

「いや。おいらはあの辺の四方に向けて封じの結びを張ってた。」

「封じの結び。何だいそれは。」

「鬼の気配ってのは弱い人の心には毒なんだよ。
 その毒気に当たると鬼が鬼を呼んで普通は正気が失せちまう。
 そのために鬼を真ん中にして四方に鬼の気配を封じ込める結び。
 ようはまじないを仕掛けてたんだ。」

昨日の世迷言は結局まだ続いているらしい。
しかしながら合点のいく話しで素直に受け止められた。

「なるほど。じゃぁ誰が鬼を。」

「あぁ。鬼はいっしょにいたもう一人が仕留めた。」

六の話だと昨晩の鬼退治では六ともう一人の二人で鬼を追い詰め
あの場で退治したのだという。

もう一人の話はのちほどにして。

「しかし。京さんはその一部始終をしっかり見ている。
 鬼封じの中にいる人間には鬼は見えねぇはずなんだ。
 そのためのまじないだし。それに後にも爺さんのいた場所に案内してもらった。」

「あぁ。あの橋のたもとか。」

「うん。あそこでも俺は鬼の思念を断ち切るために鬼切りの結びをした。」

鬼切りの結び。

鬼の残した気配を断ち切り。周囲の災いを食い止めるまじないだそうだ。

「あれにはさ。鬼を見た人間の鬼の気配も断ち切る力があるんだが
 京さんはまったく効いてないらしい。いまでもしっかり覚えてるし。」

確かにしっかり覚えていた。

口を閉ざしていた遠山の旦那がつぶやいた。

「鬼切りの血」

六も頷く。

「何だい。その鬼切りの何とかってのは。」

「昔よりこの日の本には鬼を退治できる血筋がいくつかあったそうだ。
 その血を継いだものは鬼の気配を知り、鬼の念を断ち切る力を持っている。」

「京さん。あんたも鬼切りの血をひいてるようだ。」

鬼切りの血なんて言葉も初めて耳にした。

「時は流れて鬼の住む地も衰退した今の世には不要な力だったが、
 ここ何年かで鬼がこの江戸に現れるようになった。今現れる鬼ってのは
 よく聞く化け物の類とは訳が違うんだ。鬼ってのは人の心に元からある怨念
 みたいなもんが人並みの範疇を超えちまって人を鬼に変える。元は俺たちと
 同じ人間さ。昔からの化け物の鬼ってのは、えらい坊さんや術者の手で大昔に
 滅びてる。でも誰かが禁術でその鬼の心を目覚めさせて人々を鬼に変えてる
 らしい。それで幕府は鬼討伐の部隊を隠密で作った。」

「もっとも結枝にばれてりゃしょうがあるまい。」

遠山は咳き込んだ。

「まぁ。よほど信頼できる人にしか話してないだろうよ。」

しゃれで言ったが遠山には悪いことを言っちまったと思った。

「なぁ京さん。鬼切りの血ってのはもうさほど生き残ってないそうだ。
 縁あって俺もその一人。ここにいる大将もその一人だ。
 鬼退治。俺たちといっしょにやってくれねぇか。」

遠山もこちらを見つめ頷く。

「鬼退治か。」

俺は困惑した。
自分の身体に流れる血の意味も判らず。

「あぁ。俺たちは幕府膝元鬼討伐隊。閻魔だ。」

さてさて

ちょこちょこ色んな御仁が現れ始めまして、
ようやく物語の主題となる鬼討伐部隊の片鱗が
見え隠れし始めました。

六さんの正体は次の幕で明かされます。
結枝のいい人も顔を出します。

沙耶にはもうしばらくどんと構えてもらいましょう。

そんなこんなで続きます。

そろそろ新しい登場人物登録があったらいいなぁ。。。。。

ちょっとそんな気持ちです。

本編 幕の六

「まさか、京さんと結枝とはねぇ。」

こちらも先程の騒動の幕を下ろしたのが、
このさながらあめんぼのような脆弱な体つきの男とは
到底考えも及ばなかった。こいつの名前は六。
馴染みの店でよく酒を交わす飲み仲間だ。

貧相な身体だがいっぱしの役人で
結枝のいい人とも仕事柄繋がりがあるらしい。

やたらでかく見える羽織には丸に十字の家紋が入っている。

身なりはきちっとした奴だし
役人なんだが身分の隔てなく町の連中と仲のいい
ある意味型破りな男だ。

「しかし、結枝の奴。何もなかったように呆けてやがったが、
 大丈夫なのか。気が逝っちまったのかな。」

やたら愛想のいい役人は目の前の肴をちょいちょいつまんでは
ちびりちびりやってこちらの話に相槌をうつ。

「何。突然の雨で見たことある背中が女を抱き抱えてるのが
 目に入ったもんだから。野暮は承知と思いつつ雨粒を遮ったって寸法だ。
 よく見りゃ京さんの胸に埋もれてるのは結枝だったんで、
 ちと見ぬふりしようとしたが、時既に遅しってとこで。」

少し赤ら顔の役人はにやけてそういいやがった。

「おいおい。旦那のいる女摘むほど困っちゃいねぇよ。」

それを聞くとくすくす笑いながら、

「それもそうだね。あの仏頂面の女に手ぇ出したら大変だ。」

「しかしよぉ。六さん。何で結枝は何も覚えてねぇんだ?
 あんたの顔見ても、しばらく誰だかわからねえ様子だったし
 それに長屋に着いたらけろっとした顔で妹にただいまだってよ。」

「まぁ。ちょいと雨に濡れただけのことじゃないか。
 京さん。これといって不思議な話でもないだろうよ。」

一瞬、耳を疑った。
こいつには「あれ」が見えてなかったのか?

気が触れたかと思われても仕方ないとばかりに

「あんな化け物、俺は今まで見たことねぇよ。」

と、言ったところで六の箸が止まった。
さっきまでのにやけ面が嘘のようにじっとこちらを見据える。

「京さん。あんた、、、、見ちまったのか。」

見ちまった?おかしな話をする奴だと思った。

「何言ってるんだ。突然、斬られた腕がすっ飛んできたんだ。
 それを見て結枝は落ちちまった。」

ついには酒を運ぶ手も止まった。

「京さん。そのことは結枝にも誰にも言っちゃいけねぇ。」

「なんでだよ。俺の気が触れたとでも思ってるのか?
 そりゃ、最初は自分を疑ったさ。でもな。あんな目の前で幻が
 突然見えてくるほど飲んでもいねぇし。」

「そうか。あんた、前から何かあるって気にはなってたがそういうことか。」

まじまじとこちらを見つめ、六は一人納得した様子だった。

「そういうことってどういうことだよ。」

こういうときほどじれってぇと思っちゃいけねぇが
性分だからしょうがない。

「京さん。見慣れねぇ爺さんと会ったね。」

「あぁ。それも変な話だったんだが。」

「あまり落ち着いてもいられないようだ。京さん。あんたに折り入って話がある。」

あからさまにこう言い放ったら

「おやじ。勘定。」

と、さっさと店を出払った。

「おい。六さん。どういうことだよ。」

「いいから。とにかくその爺さんを見た場所まで案内してくんな。」

足早に前を行く六の歩き方に驚いた。
こいつの印象ときたらふらりふらりとよた歩きする奴だったのに
目の前を闊歩するでかい袴は威風堂々とした趣だ。

「門の手前。橋のたもとだよ。六さん。一体どうしたっていうんだい。」

六の脚がふと止まった。
そして、振り向きもせず淡々と

「京さん。あんたの力借りて、やりてぇことがある。」

そういってまた足早に歩き始めた。

道端の堀のせせらぎが先程の雨のせいで勢いづいて聞こえる。

橋のたもとにくると
向こう岸の爺さんが見えた場所を指差して振り向いた。

「あそこかい?」

六もそれを見たかのようにしっかりと指はその場所を指していた。

圧倒的な六の勢いに少し面食らっていたが大きく頷いてみると。

腰の帯刀をすっと構えた。

鍔の部分に鈍い金属音がすると
六の大きめな羽織がふわっと浮いたようにみえた。

丸に十字の家紋の四方には見慣れない印が青白く浮かび上がる。

一瞬六の身体の前方から勢いある風が通り抜けた。

六は口元で何かのまじないを詠唱している。

その口が止まりかっと目を見開いて帯刀を上段から一気に
振り下ろすと、一瞬六の太刀から何かが放たれたように見えた。

前方には向こう岸。

爺さんの見えた辺りに渦が巻く。

「つむじ、、、、、。」

思わず口に出た。

子供の丈くらいのつむじは
どんどん大人の丈ほどに伸びて周りの草花が激しく揺れる。

やがてそのつむじは青白く光り、
あの青い炎を纏って空高く一直線に飛んでいった。

刀を鞘に納め、大きく息をして、こちらに振り返ると
いつもの飄々とした面に戻って。

「とりあえず跡は消えた。京さん。明日改めて会おう。」

そういって俺の肩を叩き帰っていった。

何が起きたかわからねぇが、あそこには確かにあの爺さんがいたようで
あの場所には何かが残っていたようだ。

今日一日の不可解な出来事たちは
完全に思考の範疇を超えているから
もう。何も考えるのはよそうと思った。

いつものふらりふらりとした歩き方を見ながら
ひとまず帰って飲みなおすかと思ってみた。

感謝。。。。。

今週は体調悪く執筆間々ならぬ状況でした。

しかしながら、そんなここに訪れてくれる方もたくさん
いらっしゃいまして、しかも読者登録いただいてる方まで。。。。

感謝。感謝。でございます。

いつまでも床に伏せっているわけにもいきません。

皆様から元気を分けていただいた気持ちです。

明日には本編再開します。

京の字と鬼を倒した男の会話から
物語は動き出します。

乞うご期待!

さて。

初めて現れた鬼は不可解な最後を遂げました。

だれがどうやってその鬼を滅したのか?

それは次回のお楽しみ。

本編 幕の五

夢か幻か。

俺はまた幻を見ちまってるんじゃねぇのか。。。。

目の前には紛れもない鬼の腕。
そして抱き抱えるは細身の青ざめた結枝。

蠢く五指を目の前にしてしばらくすれば
消える幻だと言い聞かせる。

横に通った路地から人にあらん大きな影が伸びてきた。

この幻はまだ続きやがるのか。

背中に冷たい汗が滲み出てくる。
異様な光景に固唾を呑んでいると、
腕の主は慄く様な後ろ足で路地に現れた。

腕の切っ先からは青い炎のように残り火を落としている。
地面に落ちるそれは鬼の魂か血の塊か。
地べたに微かな炎を残しながら滲んでいく。。。

初めて目の前にした鬼の姿。

豪腕で強靭な肉体。

無造作に伸びきった赤茶けた髪。

息をする肩が大きく上下している。

鬼の口から漏れているのは寒さで凍える息ではなく
何やら怨念めいた気が漏れているように見えた。

地鳴りのように響き渡る断末魔の叫び。
安らかに眠る死者達の魂までも引き込んでいくかのように
おぞましい振るえと共に響き渡った。

事の一部始終が目の前で起こっていることで
人間の神経ってのは不思議なもんで
最初の驚愕も次第に薄れ、
冷静な思考も徐々に起き上がってくる。

こいつ。何かに怯えてやがる、、、、。

目の前にいる化け物は、明らかに恐れに対して威嚇している。
何があったかなんざぁわからねぇが
あいつが姿を現す前にあいつに付いてた腕が先に飛んできた。

後ずさるようにあいつは路地に姿を現し
こちらの存在よりも今対峙している何かに怯えているようだ。

初めて会った鬼は何に怯えるのか、、、。

それにしてもあれだけ大きな叫びに町の灯りはどこもつかねぇ。
こんだけの騒音に誰も気づかないわけがない。

辺りを見回しても戸の隙間から恐る恐る覗き込む家もない。

やはり幻を見てるんだろうか。

とにもかくにもこの場から離れてみよう。

そう思い結枝を抱き抱えこの場を立ち去ろうとしたとき。

ようやく異形の者はこちらの存在に気づいたようだ。

こちらを睨みつける奴の眼は
真っ黒な眼球に赤い瞳。

般若のような顔つきに二本の角

口角が上がり大きな口を開けたその中に人の顔らしきものを見た。

その顔は悲痛な面持ちでこちらをすがるように見ている。
何かうめき声を上げているような表情で
見ているとこちらに飛び出してくるようだった。

魔が刺すってのはこういうことをいうのかも知れねぇ。

迂闊にその口の中の顔を見ていたばっかりに
鬼の眼光に縛り付けられたようだ。

思っても身体が言うことを効かねぇ。

獲物と認識したのかちと鬼の形相がにやついて見えた。

間髪入れずに鬼のもう片方の付いてる腕がこちらに振り下ろされる。

確かに届かねぇくらいの位置なんだが何だかやばいと思った。

が、身体は動かねぇ。

終いかも。

そう思ったときにせめて冥土の土産にと
鬼の目をかっと睨みつけてやった。

眼前に振り下ろされる鬼の手。

届かねぇ。

そう思ったらぐいっと伸びてきた。

さすがにもうお陀仏と腹をくくったが
迫り来る腕から青白い炎が鼻先まで伸びたところで
ゆらめきが止まった。

目の前でかっと開いた手のひら。
五指がさっきの落ちた腕のようにもがき蠢いてる。

指先を辿り鬼の顔を見る。

真っ赤な瞳は天を怨むように裏返っている。

肩の辺から逆のわき腹にかけて一筋の太刀筋が流れていった。

ゆるりと切っ先から崩れていく半身。

徐々に他の部位にも切っ先が見え始め、首に一文字が流れた。

鬼は天に向け口をあんぐりと開ける。

そこからは先ほどの御霊と思われるものが他の御霊を引き連れて
暗闇の空めがけ昇り詰めていく。

数え切れない無数の顔
それぞれが呻きを上げて束になって昇っていく。

暗雲には不思議な模様が回転していて
そこは真二つに開き、閃光が落ちてくる。

次第に鬼の残骸も消えていった。

辺りはぽつりぽつりと雨が降り出す。

次第に雨粒も大きくなって季節外れの雷鳴が轟いた。

顔を濡らす雨が抱き抱える結枝の頬に落ちる。

うっすらと眼を開けて

「雨、、、、、、。」

そういい此方をじっと見据えた。

気が失せていてよかったんじゃねぇかと思う。

あんなもの拝んじまったら、結枝の気が触れちまう。

自分が正気でいられること自体おかしいが。

雨の中ずぶ濡れになる二人に丸い影が落ちる。

ふと見上げると大きな傘。

「かたじけない。この雨の中お送りくださって。」

見上げたところには見覚えのある顔があった。

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